小唄とは

小唄の魅力、軽さ
THE LIGHTNESS OF TRADITION

登場する女性たちの着物姿がとても魅力的な映画「女は二度生まれる」(監督川島雄三)。小唄の稽古に通い始めた、若尾文子演じる芸者小えんが、習いたての小唄を台所で口ずさむ可愛らしい場面があります。「ちょっと唄っちゃった」そんな感じです。鼻歌のように口ずさんでしまえる軽さ、それが小唄の持ち味であり、魅力のような気がします。

四畳半のこじんまりとしたお座敷で、三味線を伴奏にして始まった小唄は、短さこそが命。一曲あたりの長さは一分半から三分くらい。

歌詞の内容は、「裏に小屋建てて、竹を植えて、スズメがやってきて、チュチュらのチュチュ♪」こんなのん気で他愛のない唄があったり、おとなの恋やら、男気の世界やら、酒がどうのこうの、吉原がどうのこうの、お祭りや春夏秋冬・各地の風景、歌舞伎や芝居の一場面を描写したもの、百花繚乱。

  春風さんや
  主の情けで咲いたじゃないか
  なぜに咲いたか 夕べの嵐

技巧をこらした手練手菅の恋の唄が多いのですが、小唄というパレットの中には、いろんな色が混じっています。万葉の歌人たちに通じる、ストレートな思いが詰まった唄もあります。

  伽羅(きゃら)の香りと、あのきみさまは
  いく夜とめても、わしゃとめあかぬ
ねてもさめても、わすられぬ

待ち焦がれていた人が来てくれた。
抱きしめると、懐かしい、あの香りが立ち上がる。
四畳半という狭い空間で、涙を溜めた美しい女に、こんな歌を唄われた時、はたして男はどんな顔をすればいいのでしょうか。

ところで、辞書で「伽羅」とひくと、「沈香などの高木からとれる高級な香料といった意味のほかに、「江戸時代、吉原などではお金と隠語としても使われていた」なんていう素敵な情報も教えてくれます。

「粋」という言葉が生まれた時代。

その軽妙洒脱さが江戸っ子に受けて、小唄は江戸の後期に誕生しました。以来現在に至るまで二千を超える小唄が作られているそうです。

「伝統の重さ」という言葉をよく耳にします。

とはいえ、重厚・重さといった形容詞は、小唄の世界にはちょっと似合わないみたいです。伝統の中にあるのほほんとした軽さが、小唄の魅力となっているのかもしれません。